報告:「日本とカナダのシニアのLGBTQに対するトラウマ・インフォームドケア ―トランスジェンダー・ノンバイナリーの視点から―」

9〜13分

リード

イベント概要
日時:2025年12月14日(日)
会場:高知県立大学 永国寺キャンパス(対面・オンライン併用)
講師:原ミナ汰(共生社会をつくる性的マイノリティ支援全国ネットワーク共同代表理事)、Gaben Sanchez(ガーベン・サンチェス)(カナダ・ビクトリア大学ソーシャルワーク学部 助教/臨床ソーシャルワーカー)
コメンテーター:浜口蓮生(シニアトランスメン・ノンバイナリープロジェクト代表)
司会:ソンヤ・デール  Q&A対応:武内今日子
主催:高知県立大学社会福祉学部 長澤紀美子研究室

2025年12月14日、高知県立大学永国寺キャンパスにて、国際シンポジウム「日本とカナダのシニアのLGBTQに対するトラウマ・インフォームドケア ―トランスジェンダー・ノンバイナリーの視点から―」が開催されました。日本とカナダの研究者や支援者、当事者が登壇し、トランスジェンダーやノンバイナリーの高齢者が直面する課題や支援のあり方について議論されました。

冒頭では、主催者の長澤紀美子氏が研究の背景を紹介しました。日本のソーシャルワーク教育ではトランスジェンダーに関する教育が十分に行われていない現状が指摘され、専門職として適切な理解を持つことの重要性が強調されました。

また、カナダのビクトリア大学にあるトランスジェンダー研究拠点の取り組みも紹介されました。研究チームでも訪問したところ、同拠点では歴史的アーカイブの整備、オールジェンダートイレなどの環境づくり、研究者と活動家が交流するコミュニティフォーラムの開催などが行われています。こうした事例をふまえ、日本でもトランスジェンダー・ノンバイナリーの人々が経験を共有する場をつくる必要性が提起されました。

続いて、原ミナ汰氏が自らの人生経験と支援活動について報告しました。1956年生まれの当事者として、幼少期から現在に至るまでの経験を語り、性別二元論の根強い社会の中で感じてきた違和感や孤立、海外生活、妊娠・出産の経験、レズビアンコミュニティでの活動などを振り返りました。帰国後はコミュニティ活動や相談事業に取り組み、電話相談の実施や、LGBT法連合会の設立などの活動をされてきました。

相談事業のデータからは、日本におけるトランスジェンダー・ノンバイナリー高齢者の相談者が少ないことや、相談者の多くが孤立しており、家族関係の断絶や情報アクセスの困難、生活上の複合的な課題を抱えていることが浮かび上がりました。さらに、福祉専門職の多くがLGBTQ支援について十分に学ぶ機会を得ておらず、支援者側の知識不足が課題となっている現状も報告されました。

次に、カナダから来日したガーベン・サンチェス氏が発表を行いました。サンチェス氏は63歳のトランスジェンダー男性として、自身の経験と北米での研究をもとに、トランスジェンダー高齢者の歴史的背景と現在の課題について説明しました。現在高齢期にあるトランスジェンダーの世代は、1940年代から1970年代に生まれ、強いスティグマや病理化、犯罪化の時代を生きてきました。当時は自らのアイデンティティを表現する言葉やコミュニティがほとんどなく、多くの人が安全のためにそれを隠して生きてきたといいます。現在もトランスフォビアに加えて年齢差別に直面し、適切な医療や福祉サービスへのアクセスが限られていることが課題として挙げられました。

ガーベン氏は、支援において「トラウマ」だけに注目することの危険性を強調しました。当事者の人生は苦難だけでなく、創造性や喜びに満ちているためです。規範に縛られず自分を定義する勇気や、レジリエンスを支援者が学ぶことも重要だと述べられました。

コメンテーターとして登壇した浜口氏は、73歳のトランス・ノンバイナリー当事者として、自らの経験を共有しました。幼少期から続く自己探求の過程や、SOGIという概念を知ったときの安堵感、そして同世代のトランス当事者と出会った経験などが語られ、世代的経験を共有することの大切さが示されました。

質疑応答では、当事者であるソーシャルワーカーが支援に関わる際の境界線の問題や、日本のLGBTQ高齢者の肯定的な側面について議論されました。登壇者からは、当事者経験が支援に役立つこともある一方で過信しない姿勢が重要であること、また日本でも職場やコミュニティの中で支え合いが存在していることなどが指摘されました。

シンポジウム全体を通して、トランスジェンダー・ノンバイナリー高齢者の経験を理解するには、トラウマや困難だけでなく、彼らが築いてきた関係性やレジリエンスにも目を向ける必要があることが共有されました。また、世代を超えて経験を伝えていくこと、専門職の教育を充実させること、そして安心して経験を語れる場をつくることの重要性が改めて確認されました。本シンポジウムは、こうした課題について今後も議論を深めるための重要な出発点となりました。

テキスト、写真:武内今日子

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